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賃貸オーナーのための火災保険ガイド|物件を守る保険の選び方

賃貸経営における最大のリスクは、空室でも滞納でもなく、建物そのものを失う事態かもしれません。火災、落雷、台風、水漏れ、そして地震――これらは頻度こそ低いものの、一度発生すれば数百万円から数千万円の損害に直結します。にもかかわらず、火災保険は「入っているはずだが内容はよく分からない」という状態のまま放置されがちです。本記事では、賃貸オーナー様が加入すべき保険の種類と選び方、そして保険料を抑えるポイントを整理して解説します。

賃貸オーナーが加入すべき保険の種類

賃貸オーナーが加入すべき保険のイメージ

賃貸経営で必要となる保険は、大きく3つの方向から整理できます。建物という資産を守る保険、第三者への賠償に備える保険、そして収入の途絶に備える保険です。

火災保険(建物)

賃貸物件のオーナー様が加入するのは、建物を対象とした火災保険です。入居者が加入する火災保険は、あくまで入居者自身の家財と借家人賠償責任を対象としており、建物本体はカバーされません。この違いを混同しているケースが少なくないため、注意が必要です。

火災保険という名称ですが、補償範囲は火災に限りません。落雷、破裂・爆発、風災・雹災・雪災、水災、水濡れ、盗難、建物外部からの物体の落下・衝突など、幅広い事故が対象となります。近年は台風や集中豪雨による被害が増えており、風災・水災の補償を外していないかは必ず確認しておきたいポイントです。

なお、地震・噴火・津波による損害は火災保険では補償されません。これらに備えるには、地震保険を別途付帯する必要があります。地震保険は火災保険に付帯する形でしか加入できず、補償額も火災保険金額の30〜50%が上限という制約があります。

施設賠償責任保険

建物の管理不備が原因で第三者に損害を与えた場合に備えるのが、施設賠償責任保険です。たとえば、外壁のタイルが剥落して通行人が負傷した、看板が落下して駐車中の車を破損した、共用部の階段が破損して入居者が転倒した――こうしたケースが該当します。

建物の所有者は、工作物責任という重い責任を負います。土地工作物の設置または保存に瑕疵があり他人に損害を与えた場合、所有者は原則として責任を免れることができません。過失がなくても責任を問われ得るという点で、極めてリスクの大きい領域です。

施設賠償責任保険の保険料は比較的安価であり、火災保険に特約として付帯できることがほとんどです。築年数が経過した物件ほど加入の必要性は高まります。

家賃補償特約

火災や自然災害によって建物が損壊し、入居者が住めなくなった場合、修復期間中の家賃収入は途絶えます。この失われた家賃収入を補償するのが家賃補償特約(家賃収入担保特約)です。

建物の修復には数か月から1年以上を要することもあり、その間の収入減はローン返済にも影響します。特に借入をして物件を保有している場合、この特約の有無は資金繰りを大きく左右します。

なお、家賃保証会社が提供する家賃滞納に対する保証とは全く別の仕組みですので、混同しないよう注意してください。前者は災害による収入減、後者は入居者の支払い不能に備えるものです。

火災保険の補償内容と選び方

火災保険の選び方のイメージ

火災保険を選ぶ際にまず決めるのが、保険金額(建物の評価額)です。評価方法には、同等の建物を新たに建築するのに必要な金額で設定する「新価(再調達価額)」と、そこから経年減価を差し引いた「時価」があります。現在は新価による契約が一般的で、全損時に建て替えが可能な水準が確保されます。時価契約では、築年数が進んだ物件ほど受け取れる保険金が少なくなり、再建できないおそれがあります。

次に、補償範囲の取捨選択です。水災補償は保険料への影響が大きいため、ハザードマップで浸水リスクを確認したうえで判断します。多摩川流域など河川に近いエリアでは、外すべきではない補償です。一方、高台に立地する物件では、その分の保険料を他の補償に振り向けるという考え方もあります。

また、免責金額(自己負担額)の設定でも保険料は変わります。免責金額を高く設定すれば保険料は下がりますが、小規模な損害では保険金が支払われません。年間の保険料と、想定される小規模事故の頻度を比較して判断しましょう。

重要なのは、火災保険が2022年10月以降、契約期間の上限が10年から5年に短縮されたという点です。自然災害の増加により保険会社が長期の収支予測を立てにくくなったことが背景にあります。長期契約のほうが年あたりの保険料は割安になるため、現在は5年契約が最も効率的な選択肢となります。既存の10年契約は満期まで有効ですが、更新時には5年以内での契約となります。

入居者にも火災保険を義務づけるべき理由

入居者に保険を説明する担当者

オーナー様が建物の火災保険に加入していても、入居者側の保険が不要になるわけではありません。むしろ、入居者の火災保険加入は賃貸経営上きわめて重要です。

その理由の中心にあるのが、借家人賠償責任保険です。入居者の失火や不注意によって部屋を損傷させた場合、入居者はオーナー様に対して原状回復の義務を負います。しかし、数百万円規模の損害を個人が自力で賠償できるとは限りません。借家人賠償責任保険に加入していれば、この賠償資力が確保されます。

また、日本には失火責任法という法律があり、重大な過失がない限り、失火者は隣家に対する損害賠償責任を負いません。つまり、隣室からのもらい火で自室が焼損しても、原則として隣室の入居者に賠償を求めることはできないのです。この場合、自分の火災保険で対応するほかありません。この構造を理解しておくことが、保険設計の前提となります。

実務上は、賃貸借契約の条件として火災保険(借家人賠償責任特約付き)への加入を義務づけるのが一般的です。契約更新のたびに保険の継続を確認する仕組みを整えておくと、失効による無保険状態を防げます。管理会社に委託していれば、この確認業務も含めて対応してもらえるのが通常です。

保険料の相場と節約ポイント

火災保険の保険料と相場のイメージ

火災保険の保険料は、建物の構造(木造・鉄骨造・RC造)、所在地、建物の評価額、補償範囲、免責金額、契約期間によって大きく変動します。木造アパートは耐火性能の観点からRC造マンションより保険料が高くなる傾向があり、同じ補償内容でも数倍の差が生じることがあります。

保険料を抑えるポイントは、主に4つです。第一に、複数社での見積もり比較です。同じ補償内容でも保険会社によって保険料には差があり、比較するだけで年間数万円の差が出ることもあります。第二に、長期契約と一括払いの活用です。5年契約の一括払いは、1年契約を繰り返す場合と比べて年あたりの保険料が割安になります。

第三に、補償範囲の最適化です。立地条件から発生確率の低い補償を外す、免責金額を引き上げるといった調整で保険料を下げられます。ただし、削りすぎて必要な補償が欠けては本末転倒です。特に風災と施設賠償責任は、外すべきではない補償といえます。

第四に、定期的な見直しです。長期契約のまま放置していると、建物評価額と保険金額が乖離していたり、現在のリスク実態に合わない補償構成のままだったりすることがあります。契約更新のタイミングは、内容を点検する好機です。

なお、火災保険料は賃貸経営における必要経費として計上できます。長期契約で一括払いした場合は、その年に全額を経費計上するのではなく、契約期間に応じて按分するのが原則です。確定申告の際は税理士に確認するとよいでしょう。

まとめ

保険の相談を受ける窓口のスタッフ

賃貸オーナー様が備えるべき保険は、建物を守る火災保険、第三者への賠償に備える施設賠償責任保険、そして収入の途絶に備える家賃補償特約の3本柱です。加えて、地震リスクに備えるには地震保険の付帯が必要になります。

選び方のポイントは、保険金額を新価で設定すること、立地に応じて水災補償の要否を判断すること、そして2022年10月以降は最長5年となった契約期間を踏まえて長期契約の割引を活用することです。また、入居者にも借家人賠償責任特約付きの火災保険を義務づけ、更新時に継続を確認する仕組みを整えておきましょう。

保険は、支払っている間は何も生み出さないコストに見えます。しかし、ひとたび大きな事故が起きれば、賃貸経営そのものを継続できるかどうかを分ける最後の防波堤になります。「加入しているはず」で終わらせず、一度は補償内容を確認しておくことを強くおすすめします。

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よくあるご質問(Q&A)

Q1. オーナーが加入する火災保険と、入居者の火災保険はどう違いますか?

A1. オーナー様が加入するのは建物を対象とした保険、入居者が加入するのは自身の家財と借家人賠償責任を対象とした保険です。入居者の保険では建物本体は補償されないため、双方の加入が必要です。

Q2. 地震による損害は火災保険で補償されますか?

A2. 補償されません。地震・噴火・津波による損害に備えるには、火災保険に地震保険を付帯する必要があります。なお地震保険の保険金額は、火災保険金額の30〜50%が上限とされています。

Q3. 火災保険の契約期間は何年が有利ですか?

A3. 2022年10月以降、契約期間の上限は5年です。長期契約のほうが年あたりの保険料は割安になるため、現在は5年契約の一括払いが最も効率的な選択肢といえます。既存の10年契約は満期まで有効です。

Q4. 施設賠償責任保険は本当に必要ですか?

A4. 築年数が経過した物件ほど必要性が高まります。外壁の剥落や共用部の破損で第三者に損害を与えた場合、建物所有者は工作物責任という重い責任を負います。保険料は比較的安価で、火災保険の特約として付帯できることがほとんどです。

Q5. 隣室からのもらい火の損害は誰が負担しますか?

A5. 失火責任法により、重大な過失がない限り失火者は損害賠償責任を負いません。そのため、原則としてご自身の火災保険で対応することになります。この点からも、建物の火災保険を適切に設定しておくことが重要です。